古野のブログ
オンボーディングの方が大事なのに
2022.07.06
「オンボーディング(on-boarding)」とは、「船や飛行機に乗っている」という意味の「on-board」から派生した言葉で、元々「船や飛行機に新しく乗り込んできたクルーや乗客に必要なサポートをおこない、慣れてもらうプロセス」のことでした。
人事用語としては、企業が新たに採用した人材を職場に配置し、企業理念、業界や事業、顧客等を理解しつつ、OJTを通じてスキル獲得してもらい、早期に「一人前」にさせていく一連の受け入れプロセスです。
用語になるということは、そこに「ニーズ」があったからです。
折角高い費用をかけて採用した新卒人材(規模にもよりますが一人100万円以上とか)を、短期で離職させてしまったり、キャリア採用として入社した幹部人材は即戦力のはずですが、そうならなかったことが多数あるからです。
FFS理論(開発者:小林恵智博士)を広げていただくパートナー企業が「オンボーディング支援」をビジネス化してくれています。その提案を聞いた某企業の人事部長が「1年もかけるの。長いね」とコメントしたそうです。また別の会社からは「そんなにコストをかけるの」でした。
新卒採用では、1年近く時間をかけ、一人100万円前後を投資しているにも関わらず、なのです。
皆さんに質問です。
「新卒で入社した人を早期に一人前する」取り組みで1年は長いと思いますか? 一人当たり、例えば20~30万円程度は高いと思いますか?
もし、どちらも「YES」と回答する人事の方がおられたら、申し訳ありませんが、あまりに〝人や組織を理解していない〟と言わざるを得ないでしょう。
「一人前」と言われる人材は、少なくとも『自分で、自分の報酬分を稼いだ上、組織に何らかのプラスアルファを生み出す』レベルです。
エレクトロニクス系メーカーは、1年間は現場に出さずに、技術の詰め込みをすると聞いています。採用した人材のほぼ全員が修士レベル以上であってもです。それは企業の研究・開発で求められているレベルと乖離があるからだそうです。
もちろん、営業系の企業では、「2年目からは、ある程度稼いでもらわないと困る」のでしょうが、単純に売上を上げるに留まっている可能性があります。
本来、『一人前』とは、単に短期的に売上を上げるだけでなく、全体的かつ長期的視点を持って顧客や市場へ価値を提供できる人材に育てていくことです。
従って、経営層や人事部門からの理念浸透や、現場上司・先輩からのOJT等を介在にして、「企業理念」「顧客への提供価値」「ビジネスモデル」「収益性」等の理解をさせたうえで、さらに「自らの強みを活かした成功パターン」を構築していくことなのです。
つまり、我々は新人であれば、早くても〝3年ほどかかってしまう〟と考えています。しかも、『誰から学ぶのか』さらに『個性の違いによる学び方』も、育つ〝質と量〟に大きく影響を与えるのです。
そんな背景もよくわかっておられずに、「1年は長い」「そんなにお金はかけられない」とお考えであれば、「人事責任者」「人材開発」の看板は下ろした方がよろしいでしょう。
例えば、FFS理論では拡散性は「概念化」させていくための体験学習が向きます。保全性は「体系化」させていくために積み上げ学習が向きます。
初期段階(1年目)は、早期に成功体験を得て、自信を獲得させていくためには、学び方が似ているトレーナーと組み合わせることなのです。そして、2年目から、思考行動の幅を広げていくために異質で補完するアドバイザー関係のトレーナーに変えるのです。
このように「組み合わせを設計する」ことで、より効果的に育てることが出来ます。それでも3年程度はかかるのです。
幹部クラスのキャリア採用は、どうでしょうか?
部長層であれば、担当役員との関係性、部下との関係性を無視にして活躍できると思いますか? 前職でかなりの実績を上げていた人であっても、それは同様に上司や部下に恵まれていたことが要因です。単に前職の「職務内容」と「評価」を確認しただけで、活躍が保証されるものでもありません。最近、上位職の人材紹介をされている人と話をした時に「トラックレコードだけで紹介しても、転職先で活躍できるかわからない時代になった」と語っていました。混沌とした時代だけに、上位職に求められる内容が複雑さを増したこともあり、「一人で完結させる能力よりも組織を動かせる能力」が求められるからでしょう。
せっかく高い費用をかけて採用した新卒や幹部人材。科学的なオンボーディングに時間と費用をかけることが、人事部長としてあなたの〝トラックレコードを高める〟はずですよ。老婆心ながら…。