古野のブログ

1on1に何を求めているの?

2022.02.01

ある会社で上司と部下が1or1面談をどのように進めているかを聞きました。
『1on1は上司と部下が信頼関係を築き、部下の成長を支援する場』と某コンサルティング会社に指導されて位置付けたようです。そのために「自由な対話」を心掛けるように管理職に通達したようです。その主な内容は
・上司に知っておいてほしいこと/サポートしてほしいこと
・仕事の悩み
・プライベートの悩み
・社内での人間関係やコミュニケーションの問題
・企業理念、全体戦略、事業戦略に対する疑問、意見 等でした。

私は、思わず笑ってしまいました。こんなこと「ようも、求めるよね」です。
これが出来る管理職が果たして何人いるのだろうか? と疑問だらけです。コンサルティング会社も無茶を言うよね…。
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さて、皆さんの会社では、どうですか? 

昔からおこなわれていた「上司-部下面談」は人事考課、評価のフィードバックが主でした。これは本来「伝えるべきこと」が明確なのですが、実は曖昧にならざるを得ない状況になります。
一般的には、課長が一次評価者として部下を評価し、その後、二次評価者の部長評価、さらに会社全体で相対化されて最終評価が決まります。課長は相対化された結果を部下にフィードバックします。自分の評価と同じであれば、「良かった点/課題が残った点」を伝えるだけでいいのですが、下がった評価の場合、曖昧にならざるを得ません。
例えば、「よく頑張っていたと思う。私も評価はしていてAだと思ったけど、皆頑張ったので、最終評価はBになりました。仕方ないよね。辛抱してこれからも頑張ってください」です。
こんな面談は上司もやりたくないですよね。

最近のトレンドとして「評価しない制度」(ノーレイティング)ですが、それは上司が日々の状態を知り、一緒に解決に導こうとすることで、年に一度二度の評価が必要なくなるからです。それを支えるのが「1on1面談」なのです。

最近、1on1を始めた会社の課長に聞くと『仕事の話が中心ですが、日頃から話をしているので、そんなに広がりません。その他の話題は話すことが思い当たりません。〝プライベートな話を共有しよう〟と言われても苦手ですね。「最近どう?」と質問しても「特に何もありません」と返事されたら、そこから突っ込めませんよ。だから、時間にしてせいぜい5分くらいです』

これが実情ではないでしょうか?

世の中にいる課長職は「プレイングマネジャーであり、プレイヤーとして優秀で課長になった人です。人マネジメントに長けた人は、ごく少数である」ということです。仕事の課題は聞けても、それ以外の話題に広げられるのは、難しいのです。

その会社が使っているという「1on1面談のためのマニュアル」を見せてもらいました。
・心身の健康チェック
・モチベーションアップ
これは、確かに是非取り組んでもらいたいものです。
しかし、「心身の健康チェック」は、具体的にどうすれば良いのでしょう? 何を部下に聞けばいいと思いますか? 「健康状態はどう?」でしょうか。
さて、あなたが上司から、この質問をされたら何と答えますか?
「………」でしょうか。まずは答えない、もしくは答えられないでしょう。

とくに〝心の健康状態〟は、専門家でさえ聞くのは難しいと言われているのに、のです。

さらに、マニュアルには「プライベートの相互理解では、自由に話し合いながらコミュニケーションを深めていきます」とあります。
共有すべき項目は以下の通りです。
・週末は何をして過ごしているのか
・何をしているときが一番楽しいのか
・好きな食べ物、好きなスポーツ、好きなテレビ番組
・家族との過ごし方
・最近、気になったニュース
・睡眠時間 等 です。

これらを上司に話をして、共有したいと思いますか?
そもそも、上司に対して、プライベートまで踏み込んで話せるような〝人としての信頼感〟を持てるでしょうか?
おそらくは、先輩社員であり、役割として上司であり『業務には精通している人』として重んじてはいるものの、「例えば家族の話しを聞いてもらえるほど、信頼できる人」と考えているか甚だ疑問です。

例えば、「週末はあまり出歩かない」と話しをしたとします。上司は、どんな言葉をかけてあげられるでしょうか?

差し詰め「そうだね。寒いからね」と同調するのが精々でしょう。

ちなみに、このシーンをFFS的に展開すると
部下の言葉を受け入れて〝勝手に理由〟を付け加えて納得するのは、受容性の上司です。多くの日本人の平均値からすれば、このパターンでしょうね。

弁別性の上司なら「なぜ?」と質問をするでしょう。
拡散性の上司は「それ、ツマラなくない」と、勝手に面白い/面白くないと評価してしまいそうです。
そして凝縮性は「そもそも週末は感性を磨く時間だ」と持論を押し付ける可能性は大です。
 
どの上司のパターンであろうと、そのあと話は続きそうにありません。だからこそ、上司は自らの個性を知り、『陥りやすい駄目コミュニケーション』を知ることが大切なのです。

さて、個性の違いで発生するすれ違いを理解していない上司は、どうやって自由に話し合いながらコミュニケーションを深めていけばいいと思いますか?
多くの管理職は人マネジメントに長けていませんので、会社側(コンサルタントを雇ったとしても、その具体的手法がプアなので)のやり方は無責任に感じるのです。かなり〝手取り足取り〟指導してあげることが大事だと私は思っているのです。

なぜならば「コミュニケーションを深めて信頼を得る」ためには、まずは自己開示をした上で、相手を理解する必要があるからです。

しかし、「自己開示」と言っても…。
本音は「知られたくない」と思っている人が多いのです。それは「周囲からどう見られているのか」が気になり、「悪い評価をされていたら…」と不安だからです。これ、保全性の高い人の特徴です。
もちろん周囲の目が気にならない人もいます。こちらは無頓着になりやすい個性です。こちらは拡散性です。そこは良い点ですが、逆に「相手に対しても無頓着」なので、部下にも「自由にしていいよ」と指示して〝途方に暮れている部下〟を放置した挙句、「何でやらないんだよ」と突っ込んで終わってしまう可能性もあるのです。信頼など得られるはずもありません。

このように、「コミュニケーションを取る」ことも「信頼を得る」ことも、基本は一人ひとりの個性が影響しますので、そのベースとなる「個性とは」を学ぶ必要があるのです。

個性とは「良いも悪い」もなく、ついつい反応してしまう癖みたいなものなので、それを理解し、〝上手く使うことが成果に繋がる〟ことを理解してもらうことが最初の入り口なのです。

マニュアルで示しているような「週末の様子を聞く」のではなく、上司は、お互いの個性の違いを理解して〝尊ぶこと〟から始まり、部下の個性・強みを活かすような対話や動機付け、業務指示をしていけば、自然に信頼関係が築かれて、部下が〝自発的にプライベートの話しを始める〟のです。つまり、「手順」ではなく、『人が人を信頼するメカニズム』を深く掘り下げることなのです。

以前のブログにも書きましたが、多くの人は「人の個性を扱うことに慣れていない」のです。そのため「1on1」とは、『個性が違う人と人が、お互いに個性をあからさまにして、どう協働していくのかを握る』面談だと伝えましょう。信頼関係が深まれば、オフィシャル/プライベートと分け隔てなく相談が来るのです。

まずは、その礎を築くためにマネジャー向けに「自己理解セッション」と「面談ロープレ」ですね。地道に積み上がるようにしていきませんか。

株式会社ヒューマンロジック研究所 代表取締役

古野 俊幸(ふるの・としゆき)

関西大学経済学部卒。
新聞社、フリーのジャーナリストなどを経て、1994年、FFS理論を活用した最適組織編成・開発支援のコンサルティング会社・CDIヒューマンロジックを設立。
CDIヒューマンロジックのホールディングカンパニーとして、1997年に株式会社イン タービジョンを設立し取締役に就任。2004年4月からインタービジョンの代表取締役に就任。その後、社名変更を経て、現職。
現在まで約600社以上の組織・人材の活性化支援をおこなっている。チーム分析及びチーム編成に携わったのは,40万人、約60,000チームであり、チームビルディング、チーム編成の第一人者である。

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使命感、決断力をもって、有事に変革を推し進めることを得意とする。組織先導型。

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