今回取り上げるのは、『竜馬がゆく』です。
さて、あなたの会社の採用面接に坂本龍馬と武市半平太がやってきました。
あなたはどちらを採用しますか?
ナナメヨミ
第2回:あなたは坂本龍馬を採用しますか?
2013.06.25
第2回:『竜馬がゆく』
『竜馬がゆく』(新装版全8巻、文春文庫、1998年)
変革を起こせる人材を採用したい!!!
『竜馬がゆく 』に出てくる坂本龍馬はスーパーヒーローである。 自らアイデアを出し、他に類を見ない行動力で幕末という不安定な時代を自由に渡り歩く。倒幕に決定的な仕事をしておきながら、最後は完成を見ることなくこの世を去る。革命家の一生としてはわかりやすいくらいドラマチックである(また、ドラマチックに書いてある)。 読んでみれば愛される理由もわかる。あまりにも有名なので今さら内容には触れない。弊社のアセスメントを使って『龍馬を分析・・・』などということもしない。
実はこの小説では『変革者を認められる人間と認められない人間』が出てくるというのが学びになるのかな?と思ったりしている。
ということで、変革を起こせる人材としてすぐに名前があがるだろう龍馬が今現在いたとして、面接で○を付けられるだろうか?(そもそも龍馬が面接に出てくるのだろうかという疑問はあるが・・・)。 てゆうか、皆さんの会社に必要な人材だと判断できるだろうか?
あるWebの記事で『スティーブ・ジョブズは今のアップルの入社試験をパスしないだろう 』というのがあった。まあ、それと似たようなことである。 そんな言い方をすればビル・ゲイツだって今のマイクロソフトに受かるか怪しいだろう。 世の中を変える人材というのはそういうものだ。枠が決まった後に、枠にはまるかどうかを判定されれば、枠からはみ出ていると見られる可能性が高い。
そういうわけで、同時代に生きた人にとって坂本龍馬の可能性を評価することは簡単にできることなのだろうか?この小説で言えば、認めることができた人は勝海舟、できなかった人は武市半平太ということになる。
武市半平太が越えられなかった壁
武市半平太は龍馬の土佐藩時代の盟友である。土佐藩の若者のまとめ役として、ともに行動をしていた。 やがて龍馬は旧弊な土佐藩の体制に見切りを付けてしまう。武市は土佐に藩にとどまり、土佐全体を自分の考えていた方向に導こうとする。 最終的には、土佐藩の体制側に疎んじられて切り捨てられてしまう。 武市は頭が良くて徳が高い、誰からも尊敬された優秀人材である。龍馬は、人望はあるがぼやっとしていて切れ味ある知性を発揮するという感じではなかった。
武市がもし採用面談に来たらおそらく落とす理由を見つけられない。龍馬は落とす理由満載である。
武市は完成された知識人であるがゆえに、龍馬を認められなくなってしまう。この悲しさを表現すること、それがこの小説で武市に求められる役割であるようだ。
武市は自身の知識を論理立てて矛盾無く説明できる人材である。 そのため、その合理性が不合理な存在まで説明してしまう。武市のような人材の論理からすると龍馬が武市の考えを理解できないのは龍馬が不勉強だからという説明をしてしまう。当時の知識階級が基礎としていた尊皇攘夷の思想体系からするとこの説明は正しく見える。 しかし、社会を変える変革は予測できる論理性の外で起きる。だから変革として驚かれるのである。
つまり、変革者を理解するためには自身の論理から外に出てみる必要がある。 そういった思考を持てるかどうかが分かれ目となる。勝海舟は幕臣でありながら幕府の枠を超えた思考を持っていたようなので、自らの論理性で自分を縛るようなこととは無縁だろう。
自分が知っていることからではなく、自分が知らないことから問いかける
さて、勝海舟にはいきなりなれないので、武市の罠に落ちないためには何をすればいいのだろうか? そのためには、自分がよって立つ考え方の基盤に対して疑いの目を向ける必要があるだろう。自分がわかっていることから見るのではなく、自分がわかっていないことから見る必要がある。
さて、最後に優秀人材=変革を起こせる人材といえるだろうか?勝海舟などは明治時代には幕末ほど活躍しなかった。革命家は革命の時代にあってこそ光り輝くものだともいえる。諸々ふまえて、本当に坂本龍馬と仕事がしたいかについては考えてみていただきたい。